DVにおける社会的暴力について
こんにちは。名古屋市でDV加害更生プログラム「Respect Shift」を提供しています。今回は、ドメスティック・バイオレンス(DV)における「社会的暴力」について、詳しくお話ししたいと思います。DVというと、多くの方は身体的な暴力や言葉による暴力をイメージするかもしれません。しかし、DVには目に見えにくい形の暴力も存在します。その一つが「社会的暴力」なのです。
社会的暴力は、被害者を社会から孤立させ、自由を奪う非常に深刻な問題です。しかし、その形態が巧妙であるがゆえに、加害者も被害者も気づきにくいという特徴があります。この記事では、社会的暴力の実態や影響、そして対策について詳しく解説していきます。DVの隠れた形態を理解し、健全な関係づくりのヒントを得ていただければ幸いです。
社会的暴力とは:定義と特徴
社会的暴力とは、パートナーの社会的な関係や活動を制限し、孤立させようとする行為を指します。これは、DVの一形態であり、相手をコントロールし、支配するための手段として用いられます。社会的暴力の特徴は、その「見えにくさ」にあります。身体的な傷跡を残さず、時には「愛情表現」や「心配」を装って行われることもあるため、周囲からも気づかれにくいのです。
社会的暴力の具体例
社会的暴力には、さまざまな形があります。具体的には、以下のような行為が含まれます。
- 友人や家族との交流を制限する
- 外出を制限する
- 電話やSNSの使用を監視する
- 仕事や学業を妨害する
- 社会活動への参加を妨げる
- 服装や髪型を指図する
- パートナーの行動を常に把握しようとする
これらの行為は、一見すると「過度な心配」や「愛情表現」のように見えるかもしれません。しかし、その本質は相手の自由を奪い、社会的なつながりを断ち切ることで、支配しようとする暴力なのです。
社会的暴力が与える影響:見えない傷の深刻さ
社会的暴力は、被害者に深刻な影響をおよぼします。その影響は、精神面や社会面、そして長期的には経済面にまで及ぶのです。
精神的な影響
社会的暴力は、被害者の精神面に大きなダメージを与えます。具体的には、以下のような影響が考えられます。
- 自尊心の低下
- 不安やストレスの増大
- うつ症状
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
- 無力感や絶望感
社会的なつながりを断たれ、常に監視されている状態は、被害者の精神を著しく疲弊させます。自由を奪われることで、自分の価値を見出せなくなり、深刻な精神的ダメージを受けるのです。
社会的な影響
社会的暴力の最も直接的な影響は、被害者の社会的孤立です。具体的には、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 友人関係の喪失
- 家族との関係悪化
- 職場や学校でのパフォーマンス低下
- 社会活動からの撤退
- 新しい人間関係を築く機会の喪失
これらの影響により、被害者は徐々に社会から孤立していきます。支援を得られる機会が失われることで、DVの状況から抜け出すことがさらに困難になるのです。
経済的な影響
社会的暴力は、長期的には被害者の経済的自立にも影響をおよぼします。具体的には、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 就労機会の喪失
- キャリアの中断
- 経済的自立の困難
- 貧困リスクの増大
社会的つながりや就労機会を奪われることで、被害者は経済的に自立することが困難になります。これにより、加害者への依存度がさらに高まり、DVの関係から抜け出すことがますます難しくなるのです。
社会的暴力の背景:なぜ起こるのか
社会的暴力が起こる背景には、さまざまな要因が絡み合っています。ここでは、主な要因について考えてみましょう。
1. 支配欲求
社会的暴力の根底には、しばしば強い支配欲求があります。パートナーをコントロールすることで、自分の優位性を確認し、安心感を得ようとするのです。この支配欲求の背景には、しばしば自尊心の低さや不安感があります。
2. 嫉妬心
過度な嫉妬心も、社会的暴力の要因となることがあります。パートナーが他者と交流することに強い不安や怒りを感じ、それを制限しようとするのです。この嫉妬心は、自信の欠如や過去のトラウマなどから生じることがあります。
3. 固定的な性別役割観
「男性は外で働き、女性は家庭を守るべき」といった固定的な性別役割観が、社会的暴力を正当化する要因になることがあります。このような価値観に基づいて、パートナーの社会活動を制限しようとするのです。
4. 自己不安
自分自身に対する不安や自信の欠如が、社会的暴力につながることがあります。パートナーが自分以外の人と関わることで、見捨てられるのではないかという不安から、社会的つながりを制限しようとするのです。
5. コミュニケーション能力の不足
健全なコミュニケーション能力の不足も、社会的暴力の要因となることがあります。自分の不安や欲求を適切に表現できないがゆえに、パートナーの行動を制限することで安心感を得ようとするのです。
社会的暴力への対策:被害者と加害者それぞれのアプローチ
社会的暴力の問題を解決するためには、被害者への支援と加害者への働きかけの両方が重要です。ここでは、それぞれのアプローチについて見ていきましょう。
被害者への支援
社会的暴力の被害者に対しては、以下のような支援が必要です。
- 安全の確保
- 社会的つながりの再構築支援
- 心理的ケア
- 経済的自立支援
- 法的支援
まず最優先されるのは、被害者の安全確保です。必要に応じて緊急避難先を提供し、加害者から離れる選択肢を用意することが大切です。次に、失われた社会的つながりを取り戻すための支援が重要です。友人や家族との関係修復、新たな人間関係構築のサポートなどが考えられます。また、社会的暴力による心理的ダメージをケアするための、カウンセリングなども重要な支援となります。さらに、経済的自立に向けた支援も必要です。就労支援や職業訓練、経済的援助などが考えられます。
加害者への働きかけ
社会的暴力の根本的な解決のためには、加害者への働きかけも欠かせません。DVの加害者更生プログラムでは、以下のような取り組みを行います。
- 暴力の本質の理解
- 自己の行動パターンの認識
- 健全な関係性の学習
- コミュニケーションスキルの向上
- 感情コントロール法の習得
まず、加害者に社会的暴力が暴力の一形態であることを理解してもらいます。自分の行動が相手にどのような影響をおよぼしているかを認識することが、変化の第一歩となります。次に、健全な関係性やパートナーシップについて学んでもらいます。相手の自由を尊重し、信頼関係を築くことの重要性を理解してもらうのです。また、自分の感情や欲求を適切に表現する方法、相手の気持ちを理解する方法などのコミュニケーションスキルを身につけてもらいます。さらに、不安や嫉妬心などのネガティブな感情をコントロールする方法を学ぶことで、社会的暴力につながる行動を減らすことができます。これらの取り組みを通じて、加害者が自らの行動を変え、健全な関係性を築く力を身につけることを目指します。
社会的暴力の予防:健全な関係性を築くために
社会的暴力を予防するためには、パートナー間で健全な関係性を築くことが重要です。ここでは、そのためのポイントを見ていきましょう。
1. 相互の信頼関係構築
健全な関係の基盤となるのは、お互いへの信頼です。相手の行動を過度に制限したり監視したりするのではなく、信頼関係を築くことが大切です。
2. 個の尊重
それぞれが個人として尊重され、自由な選択ができる関係を目指しましょう。パートナーの社会的つながりや活動を、自分の人生を豊かにするものとして肯定的に捉える姿勢が重要です。
3. オープンなコミュニケーション
お互いの思いや不安を率直に伝え合える関係を築きましょう。「わたしメッセージ」を使った自己表現や、積極的な傾聴の技術を身につけることが有効です。
4. 境界線の尊重
お互いのプライバシーや個人の時間を尊重し、適切な境界線を設けることが重要です。過度な干渉を避け、それぞれの空間を大切にする姿勢が求められます。
5. 共同での目標設定
二人で共通の目標を持ち、それに向かって協力し合う関係を築きましょう。個人の目標を尊重しつつ、カップルとしての目標も設定することで、絆を深めることができます。
社会全体で取り組む社会的暴力の解決
社会的暴力の問題は、個人や家庭の問題にとどまりません。社会全体で取り組むべき課題です。ここでは、社会に求められる取り組みについて考えてみましょう。
1. 啓発活動の推進
社会的暴力の問題について、社会全体の理解を深めることが重要です。学校教育や職場研修、地域の啓発活動などを通じて、社会的暴力の実態や影響について広く知ってもらう必要があります。
2. 支援体制の充実
被害者が相談しやすい環境を整え、適切な支援を受けられる体制を充実させることが重要です。相談窓口の増設、専門家の育成、支援プログラムの拡充などが求められます。
3. 法制度の整備
社会的暴力を含むDVに関する法制度をさらに整備し、被害者保護と加害者更生を効果的に進められる環境を整えることが重要です。
4. 職場や地域での理解促進
職場や地域コミュニティでの理解を深め、被害者を孤立させない環境づくりが必要です。DVの兆候に気づいた際の適切な対応方法などについて、広く周知していくことが大切です。
5. メディアの役割
メディアを通じて、社会的暴力を含むDVの問題について正しい情報を発信し、社会の認識を高めていくことが重要です。ステレオタイプな描写を避け、問題の本質を伝える報道が求められます。
まとめ:見えない鎖を断ち切るために
社会的暴力は、目に見えにくい形のDVです。しかし、その影響は被害者の人生全体に及ぶ、非常に深刻な問題です。この「見えない鎖」を断ち切るためには、個人レベルでの意識改革と、社会全体での取り組みが必要不可欠です。まず、一人ひとりが社会的暴力の実態を理解し、自分の関係性を見つめ直すことが大切です。健全なコミュニケーションと相互尊重に基づいた関係づくりを心がけましょう。また、周囲の人々の変化にも敏感になり、必要に応じて適切なサポートを提供する姿勢が求められます。
社会全体としては、啓発活動の推進や支援体制の充実、法制度の整備などを通じて、社会的暴力を許さない環境づくりを進めていく必要があります。私たち「ブエナヴィーダ」は、これからもDV・モラハラ加害者の更生支援を通じて、この問題の解決に取り組んでいきます。社会的暴力を含むDVは、決して許されるものではありません。しかし、適切な支援と努力があれば、必ず変化は可能です。一人で悩まず、周囲の人々や専門家に相談することをおすすめします。
皆さまの健全で幸せな関係づくりを、心から応援しています。社会的暴力のない、お互いを尊重し合える社会の実現に向けて、一緒に歩んでいきましょう。
Q&A:社会的暴力についてよくある質問
Q1:社会的暴力と過度な心配の違いは?
A:最大の違いは、相手の意思を尊重しているかどうかです。過度な心配は善意から生じることがありますが、社会的暴力は相手をコントロールしようとする意図があります。また、社会的暴力は継続的で、相手の自由を著しく制限します。
Q2:SNSの監視も社会的暴力になりますか?
A:はい、なりえます。パートナーの同意なくSNSをチェックしたり、パスワードを要求したりすることは、プライバシーの侵害であり、社会的暴力の一形態と考えられます。
Q3:社会的暴力を受けていると気づくにはどうすればいいですか?
A:自分の行動の自由が著しく制限されていないか、社会的つながりが失われていないかを振り返ってみてください。また、パートナーとの関係に不安や恐れを感じることが多い場合は、社会的暴力を受けている可能性があります。
Q4:社会的暴力をしていた場合、どう改善すればいいですか?
A:まず自分の行動を認識し、改善の意志を持つことが大切です。専門家のカウンセリングや加害者更生プログラムを受けることをおすすめします。健全なコミュニケーション方法や感情管理のスキルを学ぶことで、関係性を改善できる可能性があります。
Q5:社会的暴力の被害者を助けるには?
A:まず、その人の話を信じ、寄り添うことが大切です。安全な環境を提供し、専門的な支援につなげることも重要です。ただし、被害者の意思を尊重し、押し付けにならないよう注意が必要です。
これらの質問と回答を通じて、社会的暴力についての理解がさらに深まったのではないでしょうか。社会的暴力は巧妙で気づきにくい暴力ですが、知識を持ち、意識を高めることで、必ず防ぐことができます。健全で幸せな関係づくりのために、この問題について考え、行動を起こしていくことが大切です。私たち一人ひとりの意識と行動が、社会全体を変える力となるのです。
#モラハラ #DV加害者 #更生 #Respect Shift
この記事の著者:
主催者 S.Y
DV加害更生プログラムのプロフェッショナルとして活動している主催者。DVに関する法律、行政の施策について弁護士、自治体等と積極的に情報交換をしている。