DVにおける暴力とは? その定義と種類を徹底解説
ドメスティック・バイオレンス(DV)における暴力について、皆さんはどのようなイメージをおもちでしょうか。多くのかたは、身体的な暴力をまっさきに思い浮かべるかもしれません。しかし、DVにおける暴力はそれだけにとどまりません。実際には、さまざまな形態の暴力が存在し、被害者に深刻な影響をあたえています。この記事では、DVにおける暴力の定義や種類について、わかりやすく解説していきます。暴力の本質を理解することは、健全な関係づくりのためにきわめて重要です。ぜひ、最後までおつきあいください。
暴力の定義:DVにおける暴力とは何か
DVにおける暴力とは、パートナーやかぞくに対して、身体的・精神的・経済的な危害をくわえる行為のことをさします。これは、単なる衝動的な行動ではありません。むしろ、相手をコントロールし、支配するための手段として用いられることが多いのです。暴力は、被害者の自尊心を低下させ、自由を奪い、恐怖心をうえつけます。その結果、被害者は自分の意思で行動することが困難になってしまいます。重要なのは、暴力が一回限りの出来事ではなく、くり返し行われる傾向があるということです。時間とともにエスカレートしていくことも珍しくありません。
WHOによる暴力の定義
世界保健機関(WHO)は、暴力を以下のように定義しています。「自分自身、他者、あるいは集団や共同体に対して、故意に身体的力または権力を行使する、あるいは行使するという脅威を与えること。その結果として、傷害、死亡、心理的障害、発育障害、あるいは剥奪状態などを引き起こす、または引き起こす可能性が高いもの」この定義は、暴力が身体的なものだけでなく、心理的なものも含むことを明確にしています。また、実際の行為だけでなく、脅威も暴力に含まれるという点も重要です。
DVにおける暴力の種類:多様な形態を知る
DVにおける暴力は、さまざまな形態をとります。ここでは、主な暴力の種類について詳しく見ていきましょう。
1. 身体的暴力
身体的暴力は、もっともわかりやすい暴力の形態です。具体的には、以下のような行為が含まれます。
- 殴る、蹴る、つねる
- 物を投げつける
- 首を絞める
- 髪を引っ張る
- 腕をねじる
- やけどを負わせる
これらの行為は、直接的に身体に危害をあたえるものです。目に見える傷跡が残ることもあるため、周囲が気づきやすい暴力といえます。しかし、見えにくい場所に傷をつけたり、傷跡が残りにくい方法を用いたりすることで、加害者が暴力の証拠を隠そうとすることもあります。身体的暴力は、被害者に深刻な身体的・精神的ダメージをあたえます。ときには生命の危険さえもたらすことがあるのです。
2. 精神的暴力
精神的暴力は、身体的暴力と比べて目に見えにくいものです。しかし、その影響は長期的かつ深刻なものとなりがちです。精神的暴力には、以下のような行為が含まれます。
- 脅迫や恐喝
- 侮辱や罵倒
- 無視や軽視
- 行動の制限や監視
- 人間関係の制限
- 嫌がらせや嘲笑
- 自尊心を傷つける発言
これらの行為は、被害者の心理状態に重大な影響をおよぼします。自信や自尊心が低下し、不安や恐怖を感じるようになります。その結果、日常生活や社会生活に支障をきたすことも少なくありません。精神的暴力は、目に見える傷を残さないため、周囲が気づきにくいという特徴があります。そのため、被害が長期化しやすく、深刻化しやすいのです。
3. 性的暴力
性的暴力は、相手の意思に反して行われる性的な行為のことをさします。具体的には、以下のような行為が含まれます。
- 強制的な性行為
- 望まない性的接触
- ポルノグラフィーの強要
- 避妊に協力しない
- 性感染症の危険にさらす
性的暴力は、被害者の身体的・精神的健康に深刻な影響をおよぼします。また、プライバシーの侵害や人格の尊厳を傷つける行為でもあります。性的暴力は、しばしば恥ずかしさや罪悪感から被害者が口を閉ざしてしまうため、表面化しにくい問題でもあります。
4. 経済的暴力
経済的暴力は、金銭や財産を通じて相手をコントロールしようとする行為です。以下のような行為が含まれます。
- 生活費を渡さない
- 収入や支出を管理させない
- 働くことを禁止する
- 借金を強要する
- 財産を勝手に処分する
経済的暴力は、被害者の経済的自立を妨げ、依存状態に追い込みます。その結果、暴力的な関係から抜け出すことが困難になってしまいます。また、経済的な不安定さは、精神的なストレスの原因にもなります。
5. 社会的暴力
社会的暴力は、被害者の社会的な関係や活動を制限する行為です。具体的には、以下のような行為が含まれます。
- 友人や家族との交流を禁止する
- 外出を制限する
- 電話やSNSの使用を監視する
- 社会活動への参加を妨げる
社会的暴力は、被害者を孤立させ、助けを求めることを困難にします。また、社会とのつながりが失われることで、自己肯定感が低下し、精神的な健康にも悪影響をおよぼします。
暴力のサイクル:なぜ暴力はくり返されるのか
DVにおける暴力は、一回限りの出来事ではありません。多くの場合、一定のパターンをくり返しながら、徐々にエスカレートしていきます。これを「暴力のサイクル」と呼びます。
暴力のサイクルの3つの段階
暴力のサイクルは、通常、以下の3つの段階をくり返します。
- 緊張の蓄積期
- 爆発期
- ハネムーン期
それぞれの段階について、詳しく見ていきましょう。
1. 緊張の蓄積期
この段階では、加害者のストレスや不満が徐々に蓄積していきます。些細な出来事に過剰に反応したり、イライラしたりする様子が見られます。被害者は、加害者の機嫌を損ねないよう、必死に気を遣います。しかし、この努力にもかかわらず、緊張は高まっていきます。
2. 爆発期
蓄積された緊張が、ついに爆発する段階です。身体的暴力や激しい言葉の暴力が行われることが多いです。加害者は、自制心を失い、激しい怒りを爆発させます。被害者は、恐怖と無力感に襲われます。
3. ハネムーン期
爆発期のあとに訪れる、比較的穏やかな時期です。加害者は、自分の行動を反省し、謝罪します。優しく接したり、プレゼントをしたりすることもあります。被害者は、加害者が本当に変わったのではないかと期待します。しかし、この平和な時期は長くは続きません。やがて、再び緊張の蓄積期に入り、サイクルがくり返されていきます。
暴力が及ぼす影響:被害者への深刻なダメージ
DVにおける暴力は、被害者に深刻かつ長期的な影響をおよぼします。その影響は、身体的なものだけでなく、精神的・社会的なものにまでおよびます。
身体的影響
暴力による直接的な身体へのダメージは、以下のようなものがあります。
- 打撲や骨折
- 内臓損傷
- 慢性的な痛み
- 睡眠障害
- 食欲不振や過食
これらの身体的影響は、長期にわたって被害者の健康を害する可能性があります。また、ストレスによる免疫力の低下も見られることがあります。
精神的影響
暴力は、被害者の心理状態に重大な影響をあたえます。主な精神的影響には、以下のようなものがあります。
- うつ症状
- 不安障害
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
- 自尊心の低下
- 自殺念慮
これらの精神的影響は、被害者の日常生活や人間関係にも大きな支障をきたします。また、長期にわたって回復に時間がかかることも珍しくありません。
社会的影響
暴力は、被害者の社会生活にも深刻な影響をおよぼします。主な社会的影響には、以下のようなものがあります。
- 仕事や学業への支障
- 人間関係の悪化
- 社会的孤立
- 経済的困難
これらの影響により、被害者は社会から孤立し、自立することが困難になってしまうことがあります。
暴力を正当化してしまう:加害者の典型的なパターン
DVの加害者は、しばしば自分の暴力行為を正当化してしまう傾向があります。これらの傾向は、しばしば被害者を混乱させ、暴力を継続させる要因になります。傾向には、以下のようなものがあります。
1. 相手のせいにする
「おまえが〇〇したからだ」「おまえがもっと気をつければ、こんなことにはならなかった」といった言い方で、暴力の原因を被害者に転嫁します。これにより、被害者は自分に非があると思い込み、罪悪感を抱くようになります。
2. 暴力を否定する
「たいしたことじゃない」「冗談だよ」といった言い方で、暴力の深刻さを軽視します。被害者の感じる恐怖や痛みを無視し、問題の存在自体を否定しようとします。
3. 外的要因のせいにする
「仕事のストレスがたまっていた」「酔っていたから」といった言い方で、外的な要因に責任を押し付けます。これにより、自分の行動に対する責任を回避しようとします。
4. 愛情表現だと主張する
「おまえのことを思ってやったんだ」「愛しているからこそだ」といった言い方で、暴力を愛情表現だと主張します。これにより、被害者の価値観を混乱させ、暴力を受け入れさせようとします。
5. 約束と謝罪をくり返す
「もう二度としない」「本当に反省している」といった言葉で、改心を装います。しかし、多くの場合、この約束は守られず、暴力はくり返されます。これらの言い訳や態度は、加害者が自分の行動を正当化し、責任を回避するための手段です。被害者や周囲の人々は、これらの言い訳に惑わされることなく、暴力行為そのものに注目することが重要です。
暴力からの回復:被害者支援と加害更生プログラム
DVにおける暴力の問題を解決するためには、被害者への支援と同時に、加害者の更生も重要です。ここでは、それぞれのアプローチについて見ていきます。
被害者支援:安全確保と心理的回復
DVの被害者支援においては、まず被害者の安全確保が最優先されます。具体的には、以下のような支援が行われます。
- 緊急シェルターの提供
- 警察や司法機関との連携
- 心理カウンセリングの実施
- 経済的自立のための支援
- 子どもの保護と支援
これらの支援により、被害者が暴力的な環境から脱し、心身の回復を図ることができます。また、長期的な視点で、自立した生活を送れるようサポートすることも重要です。
加害更生プログラム:暴力の連鎖を断ち切る
加害更生プログラムは、暴力的な行動パターンを変え、健全な人間関係を構築する能力を身につけることを目的としています。主な内容には、以下のようなものがあります。
- 暴力の本質と影響についての教育
- アンガーマネジメント
- コミュニケーションスキルの向上
- ストレス対処法の習得
- ジェンダー意識の改善
これらのプログラムを通じて、加害者は自らの行動を振り返り、非暴力的な問題解決方法を学びます。ただし、プログラムの効果を高めるためには、加害者自身に変わろうとする意志があることが前提となります。
まとめ:暴力のない社会を目指して
ここまで、DVにおける暴力について、その定義や種類、影響、予防法などを詳しく見てきました。暴力は、決して許されるものではありません。それは、相手の尊厳を傷つけ、深刻な心身のダメージをあたえる行為です。
暴力のない社会を実現するためには、個人レベルでの意識改革はもちろん、社会全体での取り組みが必要です。一人ひとりが、暴力の本質を理解し、健全な人間関係を築くスキルを身につけることが大切です。同時に、被害者支援や加害者更生のシステムを充実させ、社会全体で暴力根絶に向けた取り組みを進めていく必要があります。
暴力は決して解決の手段にはなりません。むしろ、新たな問題を生み出し、関係性をさらに悪化させるだけです。お互いを尊重し、対話を通じて理解を深め合う。そんな関係性を築くことができれば、暴力に頼る必要はなくなるはずです。
「Respect Shift」では暴力や支配に頼ることなく、お互いの尊厳を認め、愛のある関係を構築するスキルを身につけたいといったお悩みをお持ちの方に向けてDV加害更生プログラムを提供しています。個別相談も行っています。ご興味ある方はぜひお問い合わせください。
この記事の著者:主催者 S.Y
DV加害更生プログラムのプロフェッショナルとして活動している主催者。DVに関する法律、行政の施策について弁護士、自治体等と積極的に情報交換をしている。